今回ご紹介するのは『日本語の文体・レトリック辞典』(中村 明・著/東京堂出版)
先日の記事では佐藤信夫著の『レトリック事典』のレビュー記事を書いたので、本書と比較した上でのレビュー記事を書いていきたい。
『日本語の文体・レトリック辞典』と『レトリック事典』の違い
先日の記事で「レトリック事典は辞書というよりも、最初から最後まで全文読破したい専門書」という風にご紹介した。
それに対し、本書は辞書としての活用がメインとなる。レトリックやその関連用語が一通り網羅されており、用例と解説もコンパクトにまとまっている。
レトリックを体系的に深く学ぶのであれば『レトリック事典』
レトリック用語を検索するのであれば『日本語の文体・レトリック辞典』
と使い分けができると思う。
『日本語の文体・レトリック辞典』はどういう人におすすめ?
修辞技法を学習される方、それから文体研究に重きを置く書評ブロガーの方、文章術指南をするライターの方に本書はおすすめできる。
ただ、用語についての事前知識がある程度なければ、目的の単語に辿り着けない。
例えば「《嬉しい悲鳴》ってなんていうレトリックだったっけ?」と気になったときに、(たぶん、濫喩だとか対義結合だとかのグループだな……)と検討がつかなければ、なかなか《撞着語法》の答えを引き当てられない。
もし自分の知らないレトリックについて調べたい場合、それが「配列」「反復」「付加」「省略」「間接」「置換」「多重」「摩擦」の、どの原理に基づくレトリックであるかアタリをつけ、本書巻末のレトリック体系一覧から探りを入れていく形になる。
その意味において、本書は中・上級者向けと言える。(なお、見出し語は五十音順に並んでいる)
結論を述べると、本書は《小説を書く人》向けというよりかは、《文体研究や文芸評論をする人》向けの辞書であるように感じられる。
小説を書くのに本書は不要か?と問われれば、絶対にそうだとは言えないが、少なくとも本書を役立たせるのはけっこう難しい。
実際に「彼女は優しく残忍な性格だった」と描写をするときに、こうした表現が《オクシモロン/対義結合》にあたることを知らなくても、ふつうに表現技法を自分のものとして小説を書くことはできる。
「これはこういう名称のレトリックですよ」という知識は、小説を書くよりも、文芸評論をやる際に役立つものだろう。
初期学習では辞書よりも入門書籍がおすすめ
「レトリックの知識は深めたいけれども、細かい分類や専門用語まで知っておく必要はない」という方には本書よりも下記の入門書をおすすめしたい。
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以上、どちらかと言えば消極的なレビューになってしまい恐縮だが、レトリック辞書として本書はとてもよくまとまっている。
関連語・類義語・対義語、それから外来語・原語のガイドが丁寧で、検索しやすい。使っているうちに知識が自然と増えてゆくことと思う。
寝る前とかにぱらぱらとページをめくって例文を読んでいるだけでも面白い。
巻末の『日本語レトリック体系一覧』は非常に分かりやすくレトリックが分類されている。
なんにせよ私自身が『日本語の文体・レトリック辞典』を使いこなせるよう、精進していきたい。
(了)