小説のキャラクター設定がどうしてもうまくいかない。
魅力的なヒロインが書きたいのに、出来上がるのはいつも薄っぺらい紙人形だ。彼女の心は、剝いても剝いても中身がない玉ねぎの涙で出来ていて、時折「べ、べつにあんたのことなんて好きじゃないんだからね///」とテンプレな台詞を吐く。
嗚呼、困った。新人賞の〆切が近づいているのに、まさかキャラ設定の段階で躓くとは……。
こんなとき、ドラえもんならどんな秘密道具を出してくれるだろうか。
「もぅ、しょうがないな~。はい、タロットカードー!!」(チャララらーん♪)
そう、今回使うのはタロットカードだ。苦しい時の神頼み!!
いや、本来タロットカードは人間を占うためにあるのだから、タロットを用いてキャラ設定を行うのは自然なことかもしれない。
僕はHaindl Tarotと呼ばれるデッキを愛用している。タロットカードはたくさん種類があって面白いので、自分の好きなデザインのものを選んだら良いと思う。
ただHaindl Tarotはカードのサイズが手のひらほどの大きさで、シャッフルする際に洗濯物を洗うようにじゃぶじゃぶかき混ぜてやる必要がある。若干使い勝手が悪い。でもデザインがめちゃくちゃカッコイイので気に入っている。
特にこだわりが無ければ、一般的に広く知られるウェイト版タロットは解説書が多く、コンパクトなサイズもあるので扱いやすいと思う。
なんだか専門家のような口ぶりだが、僕はタロットはまったくの初心者だ。あまりいい加減なことを書くとバチが当たるので、創作に対して真摯な気持ちを持って、タロットでキャラ設定を占っていきたい。
ヘキサグラム展開でキャラクターを知る
今回はヘキサグラムと呼ばれるカード展開方法を用いた。結果は次の通り。
- 問題の過去の状態――Ace of Stones in the West(西の石エース)正位置
- 問題の現在の状態――Perfection,Four of Wands(完璧、棒4)逆位置
- 問題の未来の状態――Disappointment,Five of Cups(失望、聖杯5)逆位置
- 対策――Ace of Wands in the East(東の棒エース)正位置
- 周囲の状況、環境――Happiness,Six of Cups(幸福、聖杯6)逆位置
- キャラの内面、深層心理――Illusions of Success,Seven of Cups(成功の幻想、聖杯7)逆位置
- 物語の核心――Strength(力)逆位置
カードの展開の順番と意味は上の図のとおり。解説書によっては場所が前後したり異なる場合があるので、自分にとって使いやすい展開方法を覚えておきたい。では順番に読み解いていこう。
1.キャラクターの過去(西の石エース、正位置)
以下、キャラクターのことを便宜上”彼女”と呼ぶことにする。
彼女の抱えている問題の『過去』の位置には、Ace of Stones in the West(西の石エース)正位置が出ている。
カードでは、大きな鳥がなにやら隕石のようなものに乗って舞い降りて来ている。空には虹がかかっており、美しい青空が広がっている。
この鳥はワシである。基本的に『鳥』が登場した場合にはそれは神の使い(天使)の象徴だと考えて良いだろう。
例えばグリム童話の『シンデレラ』では可哀想なシンデレラを助ける役割を担ったのは真っ白なキジバトであったし、オスカーワイルドの『幸福な王子』でも貧しい人々に富を運ぶ仕事をツバメが引き受けた。コウノトリは赤ちゃんを授けてくれるし、青い鳥はしあわせを齎してくれる。
鳥とは即ち、神からの恩恵を持ってきてくれる存在なのである。ワシは鳥のなかでも最も神聖で、最高神ゼウスの化身、あるいは不死鳥、あるいは太陽の鳥として人々から崇拝されてきた。
カードにおいてワシが運んできたのは、美しい空と豊かな大地である。
このことから、彼女の過去は、相当に恵まれていたものと思われる。ポイントは、その恩恵が神、すなわち外部から齎されたものである点だ。
彼女は、美しい容姿と天賦の才能を持って生まれてきたのかもしれない。生まれたときから、すでにたくさんの富を手にし、多くの人から愛を注がれてきたのかもしれない。
それは彼女自身の努力によって得た幸せではないが、しかし幼いころの彼女は神から愛されていた。恵まれた存在であったと考えられる。
ここから導かれるキャラクター像は『神に愛されたヒロイン』である。
2.キャラクターの現在(棒4、逆位置)
彼女の抱える『現在』の問題の位置には、Perfection,Four of Wands(完璧、棒4)逆位置のカードが出ている。
カードのなかの4本の棒は、それぞれ上下に並んでバランスが取れており、安定している。そして手のひらに乗った大きな水の泡は、正円を描いており、その完璧性を象徴している。
しかし、である。このカード、正位置のときは相手から手のひらを差し出される絵になるのだが、逆位置のときは自分の手のひらを眺める絵となる。
さらに、正位置であれば手のひらに描かれた閉じた瞳は微笑んだように見えるのだが、逆位置になると哀しみに瞼が閉じられているように見える。
ウエイト版タロットであれば、棒4は正逆同じと解釈することもあるようなのだが、ハインドル版では少し見方が異なるようである。
手持ちの解説書によると、このカードは[誤信、思い違い、性急過ぎる、真実の機会を待つとき]といったメッセージを示す。
つまり、自分の手のひらに乗っている完璧さ(バランスの取れた棒と泡)は、過信ゆえの思い違いであり、その証拠に手のひらに描かれた自分の心の目は固く鎖されている。
彼女は才能に恵まれて生まれたが、そのことで自己過信に陥り自分の不完全さから目を逸らしている。真っ暗な闇のなかを自分の手のひらの中の(完全無欠な)幻想を見ながら歩いているので、現実に足元を掬われて転んでしまうのは時間の問題と思える。
ここから導かれるキャラクター像は『才能に溺れるヒロイン』である。
3.キャラクターの未来(聖杯5、逆位置)
彼女の『未来』を示すカードに、Disappointment,Five of Cups(失望、聖杯5)逆位置が出ている。
まず、正位置のこのカードは4つの聖杯から流された失望の涙が、ひとつのカップ(心)に受け止められる様子を表している。ゆえに、失望はたしかに人を悲しませるが、それは経験となって未来に活かされる(涙の水はカップに蓄積される)ことが意味される。
今回出たのは逆位置なので、カードから受ける印象はまったく真逆となる。心のコップから、涙の水が抜け出ていっている。つまり、失望はすでに過ぎ去ったことを示している。心のなかからくよくよと思い悩んでいた気持ちが無くなり、現実をまっすぐに見据えることができるようになるのだ。
過去の絶望を乗り越えた先にあるのは、希望である。
彼女は慢心によって何か大きな失敗をしてしまい、打ちのめされる。しかし最後には、失望を乗り越え自分の足で歩み出す。きっとそんな感じの物語が想起される。
ここから導かれるキャラクター像は『絶望から立ち直るヒロイン』である。
4.キャラクターの問題を解決する方法(東の棒エース、正位置)
彼女が抱える問題の全貌がおおよそ見えてきた。
それは『神から与えられた大きすぎる才能』そして『自己過信による挫折』である。
この問題を解決するための『手段』のカードに、Ace of Wands in the East(東の棒エース)正位置が出てきた。
いや、このカードを自分で引いたとき、正直言って驚いた。彼女の過去の問題を示すカードが『西の石のエース』であったが、それに対する解決のキーが『東の棒のエース』にある。
つまり、神から与えられた才能とは対極の方角にある何かが、鍵となるのだ。
カードには、水の蓄えられた大きな貝殻の上に細長の石が乗っかっている絵が描かれている。察するにそれぞれ女性器と男性器の象徴なのだが、つまりこのカードは人間の誕生(新たなはじまり)を意味するものとされる。
印象的なのが、棒の先端に灯る力強い炎だ。炎は、先見の明の神であるプロメテウスが人間に託した『叡智』のひとつであるとされる。本来は神のものである炎を、自由自在に扱う人間。プロメテウスが授けた知恵(炎)によって、人間は(他の動物とは違う)人間へと初めて成り得たのだ。
ところがプロメテウスは人間を賢くしすぎたので、ゼウスの怒りを買ってしまい罰を受けることとなる。プロメテウスは岩に磔にされ、生きたまま(彼は神なので不死身で死ねない)永遠にワシに肝臓を啄まれるといった残酷な刑罰を背負った。
最初に登場したカードAce of Stones in the West(西の石エース)に描かれたワシは、ゼウスの象徴であり、神の恩恵を意味する。
そしてこのカードAce of Wands in the East(東の棒エース)に描かれた炎は、プロメテウスの象徴であり、人間の知恵を意味する。
ゼウスとプロメテウス、神と人間、才能と知恵。
偶然にしては面白い対立概念がカードに現れたものだと思う。そしてこれは物語の裏テーマ、対立構造としてそのまま利用できる。
5.キャラクターの周囲の状況、環境(聖杯6、逆位置)
彼女の周囲の状況、環境を表すカードにはHappiness,Six of Cups(幸福、聖杯6)逆位置が出た。
幸福の逆位置であることからも分かるとおり、彼女の周囲には不幸な人間で満ちている。
カードの背景には神殿の柱が描かれており『理と愛』の象徴だとされるが、これがひっくり返ってしまっている。左下の星は、女神から授けられる叡智を表し、左中の赤い色味を帯びたシャボン玉は力強い生命エネルギーを表す。
が、聖杯は逆さを向いており、神の恩恵を取りこぼしてしまった。幸福はすでに過ぎ去ったあとで、覆水盆に返らない。
彼女の周囲の人間たちは、才能や環境には恵まれず、彼女に嫉妬している。またそういうルサンチマンに満ちた人々が、彼女を生きづらくさせている。
彼女が自分の才能を信じ強くあろうと頑なになるのは、失敗してきた人間を多く見てきたからだろう。
6.キャラの内面、深層心理(聖杯7、逆位置)
彼女自身の本当の気持ち、深層心理を示すカードとしてIllusions of Success,Seven of Cups(成功の幻想、聖杯7)逆位置が出ている。
このカードは正位置の場合には、自分が成功したと思っていることが実は幻想に過ぎず、己の慢心であることを気づいていないことを警告するものとなる。
逆位置の場合は、すでに彼女が問題の本質に気付いており、現実を知っていることを意味する。
中央に配置されたカップ(心)はきちんと表向きに立っており、周囲の正しい姿を知ることができる。彼女の周りの6つのカップはすべてひっくり返っており、彼女の置かれた現実が決して良くないことを示している。彼女は悪い現実にすでに気がついている。
自分が描いてきた成功が幻想に過ぎないことを、心のなかではとっくに知っているのだ。
今回、7つのカードのうち3つがカップであり、カップすべてが逆位置となっている。これはやはり無視できない要素で、人間の悪い感情だとか、すれ違う心だとか、受け入れられない現実だとか、わりとそういったドロドロとした部分を物語では書いていく必要がありそうである。
彼女の内心、周囲の環境、未来を示す場所には、たくさんの逆さになった聖杯が描かれる。彼女は孤立しており、周りとうまくいっていないことが読み取れる。
7.物語の核心(力の逆位置)
彼女の抱える問題の核心を示すカードに、唯一の大アルカナStrength(力)逆位置が登場したことは決して偶然ではないだろう。
彼女には神から与えられた大きな力があるが、周囲の負の感情が足を引っ張ったり、あるいは彼女自身が自分の能力を過信しているか、あるいは真実を見ていないことで、彼女本来の持つ力がまったく発揮できていない。
おぞましい蛇が彼女の身体に絡みつき、彼女の神聖な秘密(足元の湖に象徴される)を暴き曝け出そうと企む。彼女は弱り果て、夜の闇へと引きずり込まれる。
力を邪魔するもの、妨害、障害。これに打ち勝ち排除することで、物語はハッピーエンドへと向かうだろう。
総まとめ
占って、嗚呼すっきりしたーで終わることのできないのが苦しいところである。むしろここからが創作者にとっての本当の闘いなのだ。タロットカードはあくまで、キャラ設定のヒントを教えてくれたに過ぎない。
ここからプロットに昇華させるためには、それこそ頭でしっかりと考えなくてはなるまい。
今回タロットから得られた物語は『才能に恵まれた少女と、それを邪魔する者たち』の戦いである。彼女には他者から受け入れられないことの孤独感(逆さの聖杯)と、力を思うままに発揮できない焦燥感(力の逆位置)とがある。
そして本当は問題の本質に気付いているのに、そこから目を逸らしてひとりきりで生きていこうと彼女は意固地になる。(完璧の逆位置)
彼女を助ける役割を果たすのは、神(石エース)ではなく、熱い心の通った人間(棒エース)である。
これにさまざまなオリジナル要素を付加すれば、異能力バトル、恋愛物、ファンタジー、歴史物、ライトノベル純文学問わず、幅広くさまざまな創作に応用し活用できることと思う。
タロットカードで創作を!
(補足)タロットカードの種類について
この記事では比較的マイナーな『Haindl Tarot』というタロットデッキを使用している。しかしこのデッキは日本語の解説書がまったく出回っておらず、ふつうのタロットにはない特殊カードも存在するため読み解くのに非常に苦戦する。
もしも純粋に創作の道具としてタロットを使いたい場合は、解説書が数多く出回っている『The Rider Tarot Deck』を選ぶのが無難と思われる。