小説らしい文章の作り方(M式縛りプレイ執筆法)

まき
まき

お久しぶりです。私の単独記事は7ヶ月ぶりですね。ご無沙汰しておりました。

海鳥まきと申します。初めましての方は初めまして。

どうすれば小説っぽい文章になるの?

さてさて、本題に入りましょう。精神論や抽象的な創作論をとやかく述べるつもりはありません。私がするのは具体的な話のみ。夜空の月を手に入れたいと悩むより、池で泳いでいるスッポンを捕まえて鍋にして食べたほうが身になります。ここでは制御可能な小説文体について語ります。

【問い】下記の例文から「小説らしい文章」を作るにはどうすればよいか。

今日は雨が降っていた。けれども、私はピクニックに出かけようと思った。

1.「接続詞」を使わない

(修正前)

今日は雨が降っていた。けれども、私はピクニックに出かけようと思った。

 

(修正後)

今日は雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った。

例文で示したいのは『雨なのにピクニックに出かけようとする主人公の異常性』です。ゆえに、この文章では読者に(どうして雨なのにピクニックに行こうとしたのかな?)と疑問に思わせなければいけません。

主人公の一人称で『けれども』と言ってしまうと、それだけでもう主人公が常識的観念を持った人物になる。それでは物語として面白くなさそうです。省ける接続詞は徹底的に省いた上で、描写に説得力を持たせる必要があります。

「けれども」「しかし」「だから」「ゆえに」「なぜなら」「そして」などの接続詞が文中に出てきた場合には、代替表現を考えます。

2.特定できない「時間」「場所」の表記を使わない

(修正前)

今日は雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った。

 

(修正後)

彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った。

『今日』は読者にとっては特定不可能な表記です。『今日』は2015年の12月20日かもしれませんし、1872年の5月2日かもしれません。小説作中の時間表記では客観的時間と主観的時間の双方を明示する必要があります。

(客観的時間)年代、季節、時間帯を示す。

(主観的時間)主人公にとってその時間がどのような位置づけにあるのかを示す。

3.「思った」「感じた」「考えた」を使わない

(修正前)

彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はピクニックに出かけようと思った

 

(修正後)

彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はトートバッグのなかにサンドイッチパックとミネラルウォーター、レジャーシートを詰め込んで、最後に雨傘を手に取った。ピクニックに行くのだ。

「思った」「感じた」「考えた」は便利な言葉です。しかしこれらに頼ってしまうと、なかなか具体的な描写になりません。なるべく回避して、代替表現を考えます。

4.「あの」「その」「この」「どの」などの指示語を使わない

(修正前)

彼氏と別れて三日目の朝。その日はバレンタインデーで、雨が降っていた。私はトートバッグのなかにサンドイッチパックとミネラルウォーター、レジャーシートを詰め込んで、最後に雨傘を手に取った。ピクニックに行くのだ。

 

(修正後)

スマホのアラームで目を覚ます。待ち受け画面は2月14日の午前6時を示している。『バレンタイン・デー♡』のスケジュール通知が私の心を苛立たせた。彼氏と別れて三日目の朝、カーテンを開けると窓の外は雨だった。どしゃぶりの雨。

お気に入りの服に着替える。軽く化粧をして、後ろ髪をシュシュでくくる。トートバッグのなかにサンドイッチパックとミネラルウォーター、レジャーシートを詰め込んで、最後に雨傘を手に取った。ピクニックに行くのだ。

「わたあめ」のように文章を組み立てる

いかがでしょう。たった34文字だった例文が、最後には212文字にまで膨れ上がりました。およそ6.2倍ですよ。わたあめみたいですよね。わたあめと同じです。たったひと匙の砂糖の甘さを伝えるために、ふわふわと文章を大きくしていくのです。

(※例文で伝えたいのは『雨なのにピクニックに出かけようとする主人公の異常性』であり、このたったひとつを伝えるためにあらゆる描写が存在します)

今回「接続詞を使わない」「指示語を使わない」などの条件をつけました。けれども、小説文体で接続詞や指示語を使っては駄目なのでは決してありません。

重要なのは「○○を使わない」と縛りを課すことによって、より適した代替表現が見つかることです。これが、名付けて「M式縛りプレイ執筆法」です。

表現の幅を広げるための「縛り(使用制限)」リスト

  • 接続詞の禁止(しかし、だから、そして……)
  • 曖昧の「が」の禁止(私は彼にフラれたが、あきらめがつかない)
  • 接続詞「ので」の禁止(晴れたのでピクニックに行こう)
  • 指示語の禁止(この、その、あの、どの、ここ、そこ、あそこ……)
  • 「思った」「感じた」「考えた」の禁止
  • 特定できない「時間」と「場所」の表記の禁止
  • 「AというB」の禁止(劣等感という感情が私を際限なく苦しめた)
  • 「~と言った」の禁止
  • 「頷いた」「振り向いた」「微笑んだ」の禁止
  • 三点リーダーの禁止
  • 文末重複の禁止(~だった。~だった。)
  • 「~のような」の禁止(直喩)
  • 「こと」「もの」「とき」の禁止(私にとって悲しいことだった。/それは嫉妬とも呼べるものだった。/私が彼に初めてあったとき…)

挙げればキリがありませんね。もしも自分の文体の《癖》が把握できていれば、使いがちな表現を禁止してみましょう。きっと表現のバリエーションが広がります。いわゆる《縛りプレイ》です。

水泳の練習をするときに脚にビート板を挟んでバタ足ができないようにする、テニスの練習をするときに利き手にリストバンドの重しをつけて《スネイク》を打てなくする。なかなかにマゾヒスティックな手法ですが、水泳やテニスでできて小説でできないわけがありません。

小説文体を作っていくための最大の秘訣は「自分に制約を課して代替表現を探す」の一点に尽きます。文体を分析するとき「どのような表現が使われているか」ではなく「どのような表現が使われていないか」に着目して見ると面白いです。

ではでは、今日はこの辺で。ありがとうございました。

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