私事あるいは仕事の関係で、色彩検定2級の勉強をはじめました。
試験では「珊瑚色」や「鶯色」など様々な色の名前が出てくるのですが、これは慣用色名といって、古くから日本人が慣れ親しんでいる色の固有名詞なんですね。JIS規格では「桜色」のような和色名が147色、「オリーブ色」のような外来色名が122色と、計269色もの『色の名前』が決められているのです。
ここまで来ればピンと来ますね。この慣用色名、小説描写に使えます!
“頬をピンクに染めた、黒くて長い髪、青い空白い雲、緑に映える木々…etc”そんな月並みな色描写からワンランクアップじゃー!!(どーん
慣用色名と具体的な小説描写
※画像は、それに近いであろう色をRGBで再現しています。モニターによって色の見え方は異なることがあります。
桜色(さくらいろ)
系統色名(ごくうすい紫みの赤)
よく使う表現
- 頬がさっと桜色に上気する
- ほんのりと目のまわりが桜色に染まる
- 桜色に爪がそろう
実際の描写例
浴槽には熱いめの湯がたっぷりたたえられていて、その湯のなかに沈んでいる伸子の体は、病人と思えないほど快い桜色だった。
『道標』宮本百合子
「美しい花嫁様という事さ」
「まあ、いや —— あんな言を」
さと顔打ちあかめて、ランプの光まぶしげに、目をそらしたる、常には蒼きまで白き顔色の、今ぼうっと桜色ににおいて、艶々とした丸髷さながら鏡と照りつ。『不如帰』徳冨蘆花
- ほんのりと桜色に透けて見える肉の薄い耳…(『土曜夫人』織田作之助)
- いつも桜色の生き生きした血色をして、黒い瞳はやさしい感情にうるみ…(『地上 地に潜むもの』島田清次郎)
- 爪もまた桜色の真珠を延べたような美しさだった。(『指と指環』佐左木俊郎)
と、このように『桜色』の使い勝手の良さが分かります。健康的な様子を示すのにも用いられますし、色気づく耽美的な描写にも使われます。
これが『ピンクの肌』だとコントラストが強すぎる印象がありますし、『肌色の顔』だったら当たり前やないか!と突っ込みたくなります。桜色、なかなか良い色名ですね。桜色の他によく用いられるのが『(雪のように)白い肌』『白桃色の肌』『小麦色の肌』なんかもありますね。ふつうっぽい感じの肌色を表現するにはやはり桜色がしっくり来ます。
茜色(あかねいろ)
系統色名(こい赤)
よく使う表現
- 茜色の夕焼け空
- 西の空が茜色に染まる
- 茜色を帯びた空
- あかね色に染まる坂(ゲームタイトル)
見て分かるとおり、夕暮れの描写時によく使う色名です。
夕焼けや夕陽にかかる色としては『真っ赤な』『真紅の』『牡丹色の』『橙の』などがあります。茜色は夕陽そのものよりも、夕陽に染められた雲や空を指すときに使われることが多い色です。
実際の描写例
遥か彼方の、縁だけ茜色を帯びた入道雲のむくむくした塊りに覆われている地平線…
(『風立ちぬ』堀辰雄)
決然と分岐する鋪装道路や高層ビルの一聯が、その上に展がる茜色の水々しい空が、突然、彼に壮烈な世界を投げかける。
(『火の唇』原民喜)
翌朝早く眼を覚ますと、窓の外は野も山も、薄化粧をしたような霜に凍てて、それに麗らかな茜色の朝陽の光が漲り渡っていた。
(『黒髪』近松秋江)
と、このように風景描写にかなり使えますね、茜色。夕焼けだけでなく、例示した朝陽の光、『夕陽に染められた頬の色』『炎の映る水面の色』などにも用いることができます。
藍色(あいいろ)
系統色名(暗い青)
よく使う表現
- 空が藍色に澄む
- 藍を溶かしたような海の色
- 湖面が藍色に染まる
- 藍色のネクタイ
実際の描写例
海は広い砂浜の向うに
深い藍色に晴れ渡っていた。
(『蜃気楼—— 或は「続海のほとり」 ——』芥川龍之介)
浦島太郎は考えずとも好い、漁夫の着物は濃い藍色、腰蓑は薄い黄色である。
(少年『芥川龍之介』)
このように、空、海、湖、山のような風景や、装飾品や衣服の色として藍色がよく使われます。
小説を書くときによく使うサイト(色彩編)
ここで小説を書く段階で役立つであろうサイトを紹介します。

ずばりこのサイトです!
小説を書いていて色の名前が思いつかなければ、上のサイトで検索すれば一発で解消されます。小説描写で用いられる色名はほぼ網羅されているといっても過言ではないでしょう。
次に、その色名がどのように実際に描写されているかを確かめる際に重宝するのが以下のサイト。
検索ボックスにキーワードを入れて検索すると、青空文庫に収録されている作品の文中に用いられている単語をダイレクトに見つけることができます。簡単なコロケーション辞典として使えまし、とても勉強になります。
市販の辞書では
が役立ちます。
私自身も上に挙げたWebサイトや日本語大シソーラス、てにをは辞典、広辞苑、明鏡国語辞典、日本国語大辞典、など様々なツールを駆使しています。
「くくく、これで理論上は文豪に劣らぬ描写ができるぜ!!」
とほくそ笑むわけですが、実際に書いてみると途中でプロットから脱線してストーリーが崩壊したり、キャラクターに魅力が感じられなかったり、〆切に原稿が間に合わなかったり、書き終えたものの何を伝えたいのかよく分からなかったり……とまあなかなかうまく行きませんな(ハイライトを失った瞳)
いろいろ脱線しましたが、『色を使った描写』に今まで悩んでいた物書きさんは少なくないでしょうし、この記事がお役に立てたのなら幸いです。