米国VI(恐怖指数)の長期ショートは「やめたほうがいい」という話

本来、恐怖指数のCFD取引なんてものは超上級者向けのトレードであるのだが、このところにわかに人気を集めている。

米国VIの長期ショートは勝率が高くて期待利回りも高く、リスクも低く抑えられる!」とメリットを謳うブログが散見される。

しかし騙されてはいけない。世の中にローリスク・ハイリターンな都合の良い投資先など存在しない。少なくとも一般投資家がリーチできる範囲内には。

米国VIの長期ショートを考えている人は、これを見てほしい。

(GMOクリック証券からのロスカット執行メール)

先日2018年10月11日のNYダウ暴落騒動のときにGMOクリック証券から届いた、恐怖のロスカット執行メールである。恐怖指数の急騰を受けて、米国VIのショートポジションが3つもロスカットされてしまった。

米国VI長期ショートのデメリットを下記に挙げていく。

【罠その1】恐怖指数はどこまで上がるか分からない

巷の情報サイトでは

「米国VIのショートはロスカット値を80以上に設定しておけばリーマンショック級の金融恐慌でも耐えられるので安心!」

といったようなことが書かれているが、これは安心でもなんでもない。

たしかに、1993年以来の恐怖指数の史上最高値はリーマンショック時(2008年11月)の「89.53/※VI値は 72.80」が最高である。

でもこれは、たまたま偶然に、リーマンショックのときは米国VIが 72.80 までしか上がらなかったという過去の事実に過ぎない。

もしかしたら 100を超えていたかもしれないし、それ以上だったかもしれない。

ちょっと考えてみてほしい。もしもあなたが、リーマンショック以前から米国VIの長期ショート戦略を取っていれば、過去のデータからこのように考えたはずである。

(恐怖指数の高値は、1997年のアジア通貨危機のときが 48.64 、翌年のロシアデフォルトで 49.53、2001年のアメリカ同時多発テロ事件のときでさえ 49.35 が最高値だった。市場に大きなパニックがあっても恐怖指数は 50 を超えたことが一度もない。

余裕を見て、ロスカットレートは 60 あたりに設定しておけばまず安全だろう。)

ほら、過去のデータは当てにならない。実際、1987年のブラック・マンデーのときにVIX指数が存在したならば、リーマンショック時の最高値を軽く超えていただろうという話もある。

万が一の際にも安全なロスカットレートを見極めるためには 恐怖指数 – Wikipedia に掲載されているVIX指数の算出式を理解し「理論上はこの数値以上にはなり得ない」と言えなければならない。

もちろん僕には恐怖指数の算出式は意味不明で、さっぱり理解できない。数Ⅲの勉強を疎かにしていたことを心底後悔している。

【罠その2】米国VIの長期投資は「宝くじ」の正反対である

もしかしたらこのように考えるかもしれない。

「ロスカットレートをリーマンショック時の2倍(140くらい)に設定しておけば、ロスカットにかかる確率など万に一つしかないのだから、米国VIの長期ショート戦略は極めて期待値の高い投資手法なのでは?」

たしかにそのとおりだ。

それゆえに厄介だともいえる。

なぜならば、これは「宝くじの正反対」だからである。

宝くじはほとんどの確率で外れを引いて投資元本を失う。その代わりに万に一つもない確率で大金を得ることができる。

対して、米国VIの長期ショートはほとんどの確率で勝つことができ、ロスカットレートを100以上に設定しても年利5~10%となかなかの成績で運用できる。その代わりに、リーマンショックをはるかに超える万が一の金融恐慌が起これば、投資元本をすべて失う。

さて、この「逆」宝くじを我々は買うべきだろうか。

【罠その3】そもそもメンタルが含み損に耐えられない

高値圏で S&P500 を買っていたインデックス投資家は、リーマンショックのときにマイナス50%もの含み損に耐えなければならなかった。当時のことは知らないが、おそらくセンセーショナルな報道が連日なされただろうし、人々は悲観に明け暮れていただろう。金融市場の終焉を信じた人も少なくなかったはずだ。

そのなかでなおポジションを手放さず S&P500 に積立投資を続けられるのは、とてもメンタルの強い投資家だけだった。米国経済の回復と成長を信じて貫いた人だけが、絶好の買い場を自分のものにできた。

さて、もはや言うまでもないことだが、リーマンショックのときに S&P500インデックスを持ち続けるよりも、米国VIのショートポジションを持ち続ける方がはるかにメンタルをやられる。

たとえロスカット値を100に設定していたとしても含み損はマイナス70%を超え(その上、恐怖指数はどこまで上がるか分からないので)追加の証拠金投入を迫られる。

米国VIが大きく値動きするのは米国市場がオープンしている夜間であるから、不安で眠れたものではないだろう。

もしもリーマンショック時に米国VIを 25 でショートしていた場合、含み損は2008年9月から翌年5月頃まで解消されない。

およそ8ヶ月もの間、耐えられるだろうか。ジェットコースターのような恐怖指数の値動きと、迫りくるロスカット、広がる含み損、悲観的な報道、不況……。

耐える自信がないのなら、米国VIの長期ショートはすべきではない。年利10%で資産を増やすことよりも、健全なメンタルを保つことのほうがずっと価値のあることだ。

【罠その4】ポジショントークに騙されないように

ここまで読んでくださった方ならば、米国VI長期ショートの隠れたデメリット、恐ろしさに気づいていただけたかと思う。

米国VI長期ショートは、たしかに勝率が高い。だが、ローリスクとは言えない。

年利 5%程度で良いならば S&P500インデックスに長期投資するので十分だ。たとえ暴落して含み損を抱えることになっても、そちらの方がメンタル的にはマシである。

投資初心者の人に対して米国VIショートを勧めているような情報サイトは、ある意味ポジショントークなところがあり、GMOクリック証券の口座開設をさせてアフィリエイト報酬を得ることを目的としている。

もちろん、サイト運営者の方を批判するつもりは一切ない。投資は自己責任の上で各々が自由に判断し、楽しんだら良いものと思う。

ただ、ツイッターなんかを見ていても不用意に米国VIショートを始める人が散見される。警鐘を鳴らす意味で、今回はリスクとデメリットをご紹介させて頂いた。

かくいう僕自身もCFDで下手なトレードをしたせいで今現在は多くの損失を抱えており、

たすけて……:;(∩´﹏`∩);:

って感じで今部屋の片隅に座り込んでガタガタ震えている。

浅はかで愚かなトレードをして後悔している僕みたいにならないよう、反面教師としていただけたら幸いだ。

(了)