広告で食っている僕が「アドブロック入れて」としか言えなかった

深夜の二時を回っていて、そろそろ布団に入り込もうかとしていた矢先、唐突にスマートフォンの着信音が鳴った。

電話は友人からだった。彼とは長い付き合いだ。

友人は少しパニックに陥っていて「何とかしてくれ。お前なら分かるだろう」と訴えかけてくる。話を聞いてみると、広告がどこまでも追いかけてくるので助けて欲しい、とのこと。

その一言でおおよその事態が察せられた。僕は彼の病気について、よく知っていたからだ。

リターゲティング広告と強迫観念

極めて個人的な情報となるのでフェイクを入れる。(冒頭の時点ですでにフィクションを混ぜていることをお許し頂きたい)

強迫性障害、パニック障害、摂食障害といった病をイメージしてほしい。

例えば「自分は痩せなければならない」という強迫観念を持つ人間がインターネットを使った場合、バナー広告はそれを後押しする形で働く。

近年よく使われるのがリターゲティング広告だ。あるサイトを訪れたユーザーに対してクッキーを付与し、バナー広告を追いかけさせる。

「ダイエットサプリの販売サイトを訪問したら、他のサイトのバナー広告もダイエットサプリだらけになった」というのがリターゲティング広告の効果である。

僕も就職活動中に、就活サイトのバナー広告がどこまでも付きまとってきて大いに弱った。漫画を読んでいても、動画を見ていても、絶えず「就活しろー!」とバナー広告が追いかけてくるのだ。これではノイローゼになってしまう。

ましてやそれが、美容・健康あるいは金融方面となると、はるかに深刻度が増す。痩身の強迫観念を持つ人に対して、ダイエットサプリや健康食品のバナー広告がしつこく表示される。

友人が助けを求めてきたのもまさにこれで、ダイエットや健康食品のバナー広告が常に表示されるような状態になってしまい、本当に参ってしまったらしい。

何もこれは健康分野に限った問題ではない。

例えばギャンブル依存を持つ人に対して、広告が何度もFX口座の開設を勧めてくるケースは考え得る。

FXの広告は『副業』というキーワードで表示されるので、より悪質である。僕はFXも株式投資も経験者だが、あれは『副業』にはなり得ない。投機もしくは投資だ。

『誰でもできる簡単な副業♪』みたいなあおり文句でFXがおすすめされるのは、どこからどう考えてもおかしい。倫理にもとる広告が氾濫しており、これがリターゲティングされるとなると、かなり厄介だ。

ともあれWeb広告の問題というのは、スマホでスワイプすると上から降ってきて誤クリックを誘発するバナーみたいな、物理的にうっとうしい!ものにとどまらない。

ユーザーの行動履歴を解析して、ストーカーのようにしつこく付きまとってくるリターゲティング広告についても、見過ごせない深刻さがある。

Googleはリターゲティング広告の危険性を理解している

AdWords(AdSense)をはじめ、Web広告を配信する立場にあるGoogleは、リターゲティング広告の危険性をもちろん理解している。

だから一部の広告ジャンルでは、リターゲティングすることを禁じている。

詳しくは(Personalized advertising – Advertising Policies Help)を見て頂ければ分かるが、具体的に

  • アルコール
  • ギャンブル
  • 処方薬、特定の病気の治療
  • 政治的思想

等のセンシティブなカテゴリの広告はリターゲティングできない。

また、ユーザーが望むのであれば「パーソナライズド広告を表示しないようにする(オプトアウトする) – Google」の設定によってリマーケティング広告・行動ターゲティング広告を無効化できる。

さらに、特定の広告主からの広告配信をユーザー側からブロックすることもできる。(不要な広告を削除する – Google

しかし上記のような対策法を電話越しに伝えようとしても「何言うてんのか意味わからんわっ」といった感じで話がまったく通じない。たしかに一般の人に対してリターゲティングだのパーソナライズド広告だのオプトアウトだの言っても意味不明だろうし、その設定方法も分かりづらく、ハードルが高い。

それに上記の方法を取ったとしても「ダイエット」という巨大市場の広告をすべてブロックするのは不可能に近い。広告を配信するのはGoogleだけではない。

 

僕は観念して「アドブロックの導入方法」をレクチャーすることにした。

アドブロックが多くの支持を集める理由が、ようやく理解できた。

パーソナライズド広告はときに有害である

広告はその性質上、個人の欲望や不安に訴えかける。ダイエット関連商品に限らず、化粧品、脱毛エステ、FX、保険、カードローン、引っ越し、転職、資格、婚活…etc さまざまな広告ジャンルがある。

それらの情報がプラスに働くこともあれば、もちろんマイナスに働くこともある。

会社に不安を持つ人が、毎日のように転職広告を見続けていたら「俺は本当に今のままでいいのだろうか……」と不安をさらに大きくさせてしまう。広告によって強迫観念を悪化させるだろうことは、想像に難くない。

そしてネットを使う大多数の人たちは、パーソナライズド広告をオプトアウトする方法も知らないし、アドブロックの存在も知らない。

このままネット広告のモラルハザードが続くのであれば、Web広告で稼いでいる自分も、いつか大きなしっぺ返しを受けることになるだろうと覚悟する。

当ブログも、Google AdSenseを入れて運営している。しかし他のマネタイズ方法があるのであれば、そちらの方が本当は望ましいのだ。

「アドブロックがコンテンツを滅ぼす!」「アドブロックを入れている人はフリーライダーである!」と批判する人がいる。僕もポジショントークをするならば賛成したいところだが、今やそれも言えなくなってしまった。

広告から自分の身を守るために、アドブロックを入れるのはやむを得ないことである。広告で食っている僕が「アドブロック入れて」としか言えなかった。

こんな世界は、変えていかなければならない。

(了)