SEOにおける長文信仰

クライアントさんから連絡が入った。「SEOの効果を高めたいので、ちょっとリライトして記事の文字数を増やしてもらえませんか?」僕はその場で快諾をする。今月は収入がピンチなのだ。国民年金の引き落としで口座残高がゼロになるくらいのピンチだった。引き受けないわけにはいかない。

しかしリライト案件か。リライトは文字単価が安い。多分今回も1文字単価0.5円を切るだろう。クライアントの提示した元記事は、およそ3000文字の文量があった。Webコンテンツの記事において、3000文字は十分なボリュームだ。ここからさらに文字数を増やす必要があるのだろうかと、首を傾げる。

「それでですね、五条さんには、この記事の文字数を3000文字から15000文字に増やしてほしいんですよ」顧客はさらりと言ってのけた。僕は目を白黒させて椅子から転げ落ちる。聞き間違えかと思った。「い、いちまんごせんもじ、ですか!?」

クライアントは一言、競合サイトをチェックしてみてください。とだけ言い残して、スカイプのチャットを切った。僕はさっそく当該記事が狙っている検索キーワードでググり、競合をチェックする。すると上位表示されている、とある記事が目に入った。クリックして中身を見ると、目眩がするほどの文字がぎっしり。計測したところ1万文字を超える文字数だった。正気、なのか……。天を仰ぐ。

ただの、健康食品の紹介記事に、1万文字なのだ。今回依頼されたのは、健康食品のアフィリエイト用の記事であった。1万文字も語れる内容があるとは思えない。だが現実に、ライバルサイトのひとつは超長文の殴り込みで攻めていた。クライアントさんはその競合に、文字数勝負で打ち勝とうとしていた。

昨今のSEOにおいては、コンテンツの「量」と「質」が重視される。文字数が多ければ多いほど有利ということでは決して無いが、少なくとも「300文字の記事」と「3000文字の記事」があった場合には、後者の方が検索上位にあがりやすいだろう。

しかし、である。「3000文字の記事」と「15000文字の記事」のあいだに果たして差異はあるのだろうか。これで後者の方がSEOに強いとされるのであれば、それこそ都市伝説オカルトの領域ではないのか。15000文字も書くとなれば、伝えるべく情報をまんべんなく薄めた味気のない記事になってしまう。水を混ぜすぎたカルピスはもはや水と区別がつかない。適切な文量を間違えれば、毒にも薬にもならないのではないか。

けれども、今後このような文字数水増しのリライト案件が増えてくるのを、僕は歓迎したい。Webライターの収入は執筆文字数で決まる。長文信仰が広まるのは商機だ。何より、たとえ何十万文字であろうと手を抜くつもりはさらさら無かった。

超長文を読者に読ませる。それは長篇小説を書く際にも必須のスキルだ。小説家を志すワナビとして、ここらでひとつ修行しておこう。

(了)