小説を書くのは寂しい。孤独な戦いである。
ひとりで黙々と創作を続けることに苦しくなってきた物書きに、ぜひとも勧めたいのが『小説同人誌をつくろう!(弥生 肇・著)』である。(※リンク先はAmazon)
僕はこれまで、孤高の創作者を気取っていたけれど、本書と出会うのがあと7年早ければと思わずにはいられない。もう、あれから7年の歳月が経つと思うと、本当に切ない。
自分語りが多く入るけれども、ひとつの書評として読んで頂きたい。
ツイッターの『創作クラスタ』の話
7年前、すなわち僕がツイッターをはじめたのは2010年2月のことだった。当時、僕は高校生で春からは大学に入ったのだが、学校には文芸サークルが存在しなかった。
ひとりぼっちで小説を書いていて、どうしても創作仲間がほしくなって、ツイッターで小説を書いている人を中心にフォローしていった。
やがてツイッターには『創作クラスタ』と呼ばれる、作家志望たちで交流をするとても緩い繋がり(グループ)のようなものが生まれた。その頃から、本書の筆者である弥生肇さんとは相互フォローの関係だった。
なので弥生さんが、オンライン創作マガジンやラノベ合同誌、同人誌即売会や電子書籍出版などでご活動されていたのは昔からよく知っていて、すごいなー、いいなー、と常々思っていた。
創作クラスタでのオフ会なんかも楽しそうで、正直あの頃の盛り上がりは僕にとっては羨ましくて、眩しかった。
そう。僕はツイッターの創作クラスタにいたにもかかわらず、自分から交流ということを一切やらなかった。殻に閉じこもっていた。
時折、ぼっちネタのツイートを投稿しては、フォロワーさんからファボ(※現在のいいね!のこと)を貰って承認欲求を満たす、なんとも寂しい人間だった。
僕がどうして、同人企画・同人イベントに参加できなかったかというと、一歩足を踏み出すだけの勇気がなかったからだ。
同人誌即売会でサークル出店する?
でもどうやって?
誘える仲間もいないし、同人誌をつくる方法もさっぱりわからない。
そもそも小説の同人誌を売る場があることさえ、知らなかった。
もしも7年前に書店で『小説同人誌をつくろう!』と出会えていたならば、きっと僕の大学生活は変わっていただろうにと悔やまれてならない。
繰り返すが、本書は孤独な創作者にこそ読んでもらいたい本である。
同人イベントで他の創作者さんと交流してみたいが、友だちもいないし、コミュニケーションも能力ないし、ひとりで出店参加できるかどうか不安だ。何だか怖い。――という人を本書は優しく後押ししてくれる。
ツイッターでの人間関係は儚い
かつてツイッターで繋がりのあった創作クラスタのフォロワーさんたちは、そのほとんどが今では姿を見せなくなってしまった。かくいう自分も、ペンネームを変えて別アカウントに失踪を遂げた人間のひとりであるが、ツイッターでの繋がりはかくも儚く消えゆくものだ。
オフ会とか同人イベントで、一度で良いから会っておけば良かったな……と今になって後悔している。
同人イベントで人と交流をするということ
僕は昨年に『文学フリマ大阪』に参加し、今年の1月に『文学フリマ京都』にサークル出店した。そして夏には『尼崎文学だらけ』というイベントで小説同人誌を出す予定だ。
参加レポートについては下の記事をご参照いただきたい。
つまり、7年の歳月を経てようやく自分の中での踏ん切りがついて、はじめて同人誌即売会で小説を出した。ひとりで。
結論を述べると、小説同人誌をつくるのはとても楽しかった。
やはり僕はコミュニケーションが不得手なので、そんなに多くの人とは話せなかったけれど、それでも人と人との繋がりを実感することができた。それはツイッターでの交流とはまた違った、新鮮な感覚だった。
どうして今までためらっていたのだろう。
どうしてもっと早くに体験しておかなかったのだろう。
と心の底から思うわけだが、それはやはり、これまで小説同人誌をつくるにあたっての情報が不足していた、入門書が存在しなかったことが大きい。
本書はおそらく商業出版されているなかでは唯一の(?)小説同人誌制作の入門書ということで、意義がある。かつて大学生だった頃の自分が、まさに読みたかった本だ。
本書内容の補足
本書のなかでは書かれていないことで、こういう情報も知っておくと役立つよー!という補足を少しだけしておきたい。
小説同人誌のフォントについて
本書p.23において「フォントを意識しよう」といったことが書かれているが、具体的なフォントについては記載されていない。
僕としては本文フォントは「游明朝」が綺麗なのでおすすめしたい。
また、『一太郎2017プレミアム』のおまけについてくる「筑紫明朝」も小説向け。
フォントサイズは「9.0P」が一般的だろうか。
このあたりはもう少し踏み込んで解説があっても良いなと感じるものの、ケースバイケースなためか、本書のなかでは具体例が提示されていない。
同人小説本のサイズについて
本書p.38では、同人小説本の希望サイズについてのアンケート結果が掲載されており、これ自体はデーターとして大変興味深い。結論として「文庫本サイズ」を希望する人が多いとのこと。
しかしながら、実際に文学フリマに行ってみると分かるのだが、主流は圧倒的に「B6サイズ」なのである。
これは何故かというと、文庫本サイズにすると1ページあたりの文字量が少なくなってしまう。その分、必要なページ数が増える。つまり製本コストが高くなってしまう。
なので長編小説を同人誌にする場合、どうしても(製本コストを下げたいので)B6サイズやA5サイズにするケースが多い。同人誌に二段組みが多いのもそのためであろう。
同人誌の印刷所について
本書p.42において、同人誌印刷所が4社ほど紹介されている。
このなかに出てこない印刷所で個人的に推したいのが『ちょこっと(ちょ古っ都)製本工房』さん。ここは圧倒的に安い。
文学フリマ大阪に行った際に同人誌を24冊購入したのだが、奥付を見ると「ちょ古っ都製本工房」で製本しているサークルが多かった。チェックしておいて損はないだろう。
ブース設営に必要なアイテムについて
本書p.76~では、同人誌即売会で出展参加するにあたって、準備したら良いアイテムについて、いろいろと紹介されている。
本書の内容にひとつだけ付け加えたいことがあるとするならば、「ブース設営に必要な道具のほとんどは100円ショップで手に入るよ!」ということ。
小銭入れや、本を立てかける台や、その他もろもろの多くは100円ショップで購入できる。まずはダイソーにでも足を運ぼう。
あとテーブルクロスを購入する際は、テーブルクロスで検索をかけても良いのを見つけるのが意外と難しくて、そんなときは「大判ふろしき」を探すと良いというのも小ネタ。
補足事項としてはこのくらいだろうか。
同人誌制作から電子書籍出版に至るまで、幅広く情報が網羅されており、入門書として十分な内容になっていると思う。(入門書のあとは、実践あるのみ!)
筆者のブログ記事(『小説同人誌をつくろう!』/初めての自著刊行です – ポジティブ物書きの雑記帳 )で書籍概要や目次詳細も掲載されている。買おうかどうか迷っている人はチェックしてみると良いかもしれない。
(了)