今回ご紹介するのはスーザン・ジョフネシー著『小説家・ライターになれる人、なれない人―あなたが書けない本当の理由』
原題は「Walking on Alligators: A Book of Meditations for Writers」(ワニの上を歩く。作家のための思索の書)
ぶっちゃけ原題のほうが本の内容に合っているし好き。
本の内容
この本は端的に述べると、原稿を書かなきゃいけないのにやる気が出ない人に向けて「今すぐ書こう!!!」と発破をかけてくれるメンタルサポート(?)の啓発書である。
見開き右ページに有名作家の格言、左ページに作者の解説が載っている。いわば格言集+αの創作指南書とイメージしていただければ良いかなと思う。
ただ元が洋書なので、我々にとってはあまり聞きなじみのない(米国の劇作家などの)有名人の格言も多い。
良い文章の書き方、面白い物語の作り方、みたいなノウハウ紹介はない。ただひたすらに、物書きのやる気を出させることに特化した精神ケアの書である。精神論というか気の持ちよう的な内容が多くを占めるのでそこは注意を。
本書の内容をひとことで語るならば、「今すぐ原稿を書こう!!!」これに尽きる。
とにかく原稿を書かなきゃ、という気にさせてくれる本だった。
本書の不満点について
もちろん良い点もたくさんあるが、不満点がないといえば嘘になるのでこちらも正直にレビューしたい。
1.絶版本で中古価格がプレミア
残念ポイントのひとつは「絶版本でありプレミア価格がついている」点が挙げられる。
本書の定価1,250円に対して、2018年7月現在Amazonマーケットプレイスでは2,500円。送料込みだと倍以上のプレミア価格がついている。
定価で買うならおすすめできるが、プレミア価格で中古本を入手するほどの価値があるかと問われると、ちょっと厳しいところがある。
読書メーターやAmazonのレビューを見ても、それなりに人気の高い本であることが分かる。どこかの出版社が復刻版を作ってくれればいいのになぁと思う。
ダメ元で「復刊ドットコム」に復刊リクエストの投票を出した。
2.翻訳
ふたつめに「翻訳文体の好みが分かれること」
翻訳の上手い下手を語れるほどの語学力は私にはないのだけれども、本書の文体は、個人的にはちょっと苦手だった。いわゆる《翻訳してる感》が強いように感じられる。
本書から一部を抜粋すると、このような文体である。
『私たちは、冬になったら必要だからといって、コツコツと食べ物を蓄えるリスではないのです。あなたが学んだことをいくらたっぷりと使っても、決して使い果たすことなどないのです。どんどんその代わりが入ってくるのですから。』
(引用:小説家・ライターになれる人、なれない人 p.151)
私的な印象としては、やや文章が読みづらい。
もしも洋書に抵抗のない人であれば、原著を手に入れた方が良いかも知れない。
原著『Walking on Alligators: A Book of Meditations for Writers』はAmazonにてペーパーバック版を購入できる。こちらは絶版になっておらず、和訳本より安く買える。
3.出典の不在
みっつめに「格言の出典と、格言者のプロフィール情報がないこと」
例えば本書では、見開き右ページに次のような格言が載っている。
「私は図書館にいるのが嫌いです。なぜなら図書館にいると、いつも、自分に何かが不足しているという感じがするからです。」
ピーター・ケリー(引用:同著 p.152)
この格言がいつどこで登場した台詞なのかは分からないし、ピーター・ケリーが何者なのかも本書には情報がない。ピーター・ケアリーならばオーストラリアの小説家であるが、彼と同一人物なのかどうかも判断がつかない。
執筆のやる気が出ないときの処方箋として
以上、不満点を多く述べてしまったが、物書きのやる気を出させてくれる啓発書として本書を評価したい。
執筆のやる気が出なくてグダグダと過ごしてしまうときに「とにかく今すぐ原稿を書け!」と背中を押してくれる。そんな処方箋のような本を数冊常備しておくと自分の助けになると思う。
各ページの最後には『今日、私は全力を尽くして書くのに、簡単な道はないという事実を受け入れます。私はとにかく書きます。(引用:同著 p.147)』といった自分を奮い立たせるための一文が記載されている。
自己暗示をかけるように、音読してみても良いかもしれない。
とにかく今すぐに書きだそう。物書きにとって、原稿を書いている時間がもっとも幸せなのだから。
(了)