低単価でライティングを引き受けるのはむしろリスクが高い

安売りがWebライターにとって有効なビジネス戦略とならないのは、現状としてWebライティングの報酬相場が崩壊しており、すでに安売り状態にあるからだ。

先日、『もやし業界「窮状」訴えに驚きの声 「今までが安すぎた」「値上げしていい」 : J-CASTニュース』といったニュースが話題になった。

もやしを安売りし過ぎるせいで、もやしの生産者が次々と廃業に追い込まれているのだとか。

ちなみにもやし生産者協会の統計によると、もやしの平均販売価格は100gあたり15円~16円で推移している。これって、クラウドソーシングにある「100文字15円」のライティング案件とそっくりじゃないか!と思わず悲しみの息を吐いた。

「今までが安すぎた」「値上げしていい」

は、もやし業界に限らず、Webライターこそが叫ぶべき悲鳴だ。

もやし安売りの一因として、もやしの原料となる種子(緑豆)の価格高騰が無視されていた側面がある。Webライティングにおいても同様で「記事制作にコストがかかること」への理解がなかなかされていない。

取材なき《リライト》ライティングの限界

一週間ほど前にランサーズで依頼のメッセージが届いた。

「1000文字200円で書いてもらえませんか?」という文言に、うっかり発注額のゼロを1個付け忘れたのかな(*´ω`*)と思ってしまった。

残念ながら、このようなライティング案件は決して珍しくない(どころか溢れかえっている)。具体的にどのようなお仕事なのかは次のとおり。

  1. 「○○」についての記事を2000文字以上で書いてください。
  2. 「○○」の情報は、インターネットで検索して調べてください。検索上位10件くらいの複数のサイトの情報を参考に記事を書いてください。
  3. 他サイトから文章をそのまま持ってくるのは駄目です。著作権を侵害しないようにオリジナリティのある表現にリライトしてください。
  4. なお、書いた記事については弊社にすべての著作権を譲渡し、著作者人格権は行使しないでください。

そのとおり。

文字単価1円を切るライティング案件は、基本的に「取材」を前提としていない。低単価案件ではそもそも取材するための時間もコストもかけられない。

最低賃金を上回る時給を確保するには、それこそ1時間以内に1記事は仕上げる必要がある。実際に僕の知るアフィリエイト法人は内勤ライターに対し、1日(8時間)に最低10本の記事を完成させるよう目標を掲げていた。

キュレーションの理想と現実

インターネットには、情報が氾濫している。信憑性の疑わしい情報、エセ科学、プロパガンダ、ステルスマーケティング、風説の流布、悪質なデマ……etc

ネットに溢れる玉石混交の情報を収集・選別・整理し、読者に役立つ形でまとめるのが「キュレーション」の理想である。

良質なキュレーションメディアを制作するには手間とコストがかかるし、キュレーター自身にも専門知識が求められる。(医療系キュレーションサイトの例を見ればお分かりのとおり)

ゆえに、本当に良質なキュレーション記事を作るのであれば、文字単価1円未満で発注をかけるのはあり得ない。

逆説的に、(言い方はすごく悪いけれども)文字単価0.2円や0.3円で発注される案件というのは「著作権侵害で怒られない程度に、他サイトから情報をうまくパクってきてねー」くらいの意識で作られている。

アフィリエイト事業者に限らず、オウンドメディア・Webメディアの運営者でも、記事制作に相応のコストが発生することはなかなか理解されない。ネットからいくらでも情報収集できるんだから、取材なんてしなくていいじゃんと思っている。

だが、取材なき《リライト》ライティングにはやがて限界が訪れる。長期的ビジョンを持つならば、小手先のSEOを考えるのではなく、真に読者にとって価値あるコンテンツを作るための方法を考えなくてはいけない。

ランサーズは頼むから目を覚ましてほしい

クラウドソーシング大手のランサーズは「THE LANCER」というオウンドメディアを運営している。そこで悲しい記事を見つけてしまった。

タイトルがそもそも「進める→勧める」の漢字変換ミスであるのは目をつむるとして、「初心者ライターに単価の低い仕事を全力で勧める」ってランサーズがそれを言っちゃあ、おしまいでしょうが!!!!

もちろん、ライターさん個人の意見としては、そういう考え方もあるのは理解できる。

僕が怒っているのはこの記事を書いたライターさんにではなくて、ランサーズ公式メディアが、このような記事を掲載していることに対してだ。

言うては何だが、低単価のライティング案件が集まる「ランサーズタスク」はブラックハットSEOの温床となっていたではないか。

ライターさんは、報酬が少なくても良いから、自分の書いた記事が誰かに読まれることを、誰かの役に立つことを望んで、それが社会的な価値を生み出すことを願って、記事を書いている――、人だってきっといるだろう。

しかし実際にはその書かれた記事は誰にも読まれることはない。サテライトサイトからメインサイトにバックリンクを送って、その被リンク施策によってサイトの検索順位を上げる《ブラックハットSEO》のために用いられる。

低単価のライティング案件は、低単価であることだけが問題なのではなくて、得てして倫理に反する事業に加担する恐れがあるから問題なのだ。

不正確な医療情報を配信し炎上したWELQ(※医療情報メディア)では文字単価0.5円前後で記事が発注されていたと聞く。そして記事の大量生産には、ランサーズをはじめとするクラウドソーシングサイトが加担していた。

(※参考: 「クラウドソーシングサイトも共犯だ」 キュレーションメディア炎上騒動についてWELQ記事寄稿ライターが怒りの告発 – ねとらぼ

初心者には低単価の仕事がおすすめ!とランサーズが言ってしまうのは、まったくもって言語道断である。

さらにランサーズ(THE LANCER)は、このような記事も公開している。

上記記事ではWebライターが2千字/時で書くべき理由として「文字単価が低くても時給1,000円ペースで稼げる」からだと主張する。たしかに、単価0.5円でもそのペースで書けば時給1,000円を達成できるだろう。しかし、本当にそれで良いのか。それがWELQの悲劇を生んだのではないか。

ランサーズはお願いだから、目を覚ましてくれ。

初心者にこそ適正単価のライティング案件をおすすめしたい

繰り返しになるが、低単価のライティング案件は、リスクが高い。

取材ができないからオリジナルな記事を書くのが難しいし、初心者であればなおのこと、著作権法や薬事法(薬機法)やその他もろもろの法律に抵触してしまう恐れがある。

それに知らず知らずのうちに、ブラックハットSEOや、反倫理的な情報サイトの構築に加担してしまうかもしれない。

最低でも、文字単価1円以上。できれば文字単価2円以上。

正直、これを高単価とは言いたくないのだが、Webライター初心者であっても、このくらいの案件からチャレンジしてみてほしい。最初のうちは仕事を得るのが大変かもしれない。だが、長期的に見れば得をするはずだ。

くれぐれも「1日に2万文字書けば、文字単価0.5円でも1万円/日は稼げるぜ!」みたいな思考に陥らないように。記事の安売り&大量生産戦略は、あとあとWELQのような問題を引き起こす。

初心者だからと気後れせずに、自信を持とう。きちんと取材して、時間をかけて記事を作れば、必ず良い記事はできる。

僕は、専業Webライターだ。しかし、仕事で1日に1記事よりも多くは、書かない・・・・ようにしている。質の高い記事を書こうとすれば、どうしても時間が必要だ。

生計を立てるのに量産は必要ない。Webライターにとってそれが当たり前となる日が来ることを、心から願っている。

(了)