日々の学業をなおざりにして遊んでばかりいたのが悪かった。
今夜もおざなりな勉強で明日の試験を切り抜けるか……。
こんな例文を見かけたときに、果たしてどちらが「なおざり」で「おざなり」なのか悩んでしまいますね。
簡単に、なおざりとおざなりの違いを解説してみましょう。
1.なおざりとは？
精選版 日本国語大辞典 全3巻セットによると、次のとおり。
なおざり（等閑）
「深く心にとめないさま。本気でないさま。いいかげん。」
引用：精選版 日本国語大辞典 小学館
元々は、男性の女性に対する態度についてを特に表す語だったようです。
「なおざりがてら」という関連語もあり、こちらは中途半端に～という意味があります。また「なおざりごと（等閑言）」には、冗談・戯れ言という意味があります。
冒頭の『学業をなおざりにする』や『健康をなおざりにする』などの使い方で、「～をおろそかにする」という意味を持ちます。近年ではこの使い方が主流ですね。
英語にするともっと分かりやすくなります。
『自分の学業をなおざりにする』は英語で”do not treat my studies”あるいは”neglect my studies”となります。treat=敬意を払って扱う,neglect=軽視する
なお、古語では形容動詞ナリ活用の言葉で「なほざり」となります。
徒然草第九十二段に「なほざり」を用いた文章が登場します。
「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。毎度たゞ得失なく、この一矢に定むべしと思へ」
引用 兼好法師『徒然草』
（意訳）初心者はふたつの矢を持ってはあかん。あとの矢をあてにして、初めの矢を射るときにいい加減な心になってまうやろ。この一矢で射止めたる！！と、いつも思うとくんやで。
なおざりの類義語としては「仮初（かりそめ）」という言葉も。
意味としては基本的に、「なおざり＝おろそか」と覚えておけば現代においては間違いが少ないです。
☆なおざりを使用した正しい例文
- 彼女は肉切り包丁から手を離すことなく、なおざりな返事をした。
- 似顔絵師は僕のイケメンな顔をじつになおざりに描いたのだった。
- 最近普及し出したズボン型のスクール水着は美しさをなおざりにしている。
- 勤務中にツイッターをしていたら「君は仕事をなおざりにしている！」と怒られた。
（参考文献：てにをは辞典）
なお、言葉の作法辞典では「なおざりな返事」は誤用とされている。明鏡国語辞典でも「なおざりな返事」は誤用例に。対して、広辞苑と”てにをは辞典”ではOKな例として載っている。国語学者も本当のところじつは分かってないんじゃないの？
2.おざなりとは？
広辞苑によると以下のとおり。
おざなり（御座なり）
「当座をつくろうこと。その場のがれにいいかげんに物事をするさま」
引用：広辞苑 岩波書店
なおざりが「本気でない」というニュアンスなのに対して、おざなりはどちらかと言えば「誠意がない」というニュアンス。その場逃れ。
明鏡国語辞典によると『お座敷などでその場の間に合わせにすることの意から』とのこと。
なおざりにもおざなりにも「いい加減」という意味があるので、これが混同される最大の要因であると思われます。
「おざなり」は英語では、perfunctory（うわべだけの、気のない）uninterested（無関心でやる気が無い）といった語句が当てはまります。
なおざりが物事をおろそかにして軽視するタイプのいい加減さであるとすれば、なおざりは心のこもっていないその場逃れの間に合わせのいい加減さだということでしょう。
ですから、冒頭の「今夜もおざなりな勉強で…」という文章は「その場しのぎのいい加減な勉強で…」という意味になります。
☆おざなりを使用した正しい例文
- 大臣は記者会見でおざなりな受け答えをした。
- 彼女はおざなりな口調で「うん、俺くんの話って面白いね」と言った。
- 面接官の「是非君のような学生に来てほしいもんだ」という言葉にはどこかおざなりな響きがあった。
- 警察官のおざなりな捜査の結果、土中に埋められたスマートフォンはついに見つからないまま事件は迷宮入りとなった。
（参照文献：てにをは辞典）
で、結局なおざりとおざなりはどう使い分けたらいいの？
1.言葉の前に付くか後ろに付くかで判断する
基本的には、なおざりは「○○をなおざりにする」という形で用いられます。
対して、おざなりは「おざなりな○○」という形で使われます。
これで分けるのが一番手っ取り早いでしょう。
2.意味で判断する
なおざりな返事＝本気ではないいい加減な返事、冗談
おざなりな返事＝上辺だけのその場逃れの返事、誠意がない
捜査をなおざりにする＝捜査をおろそかにする、捜査をずさんにする
おざなりな捜査＝その場を取り繕うための上辺だけ、形だけの捜査
こんな感じでどうでしょうかね。
しかしこうして調べてみると、なおざりとおざなりの使い分けって結構難しいですね。
このブログ自体、今までのおざなりな文章がなおざりにされていますし、これまで文体がコロコロ変わったりなどといったふうになおざりにしてきたことのおざなりな言い訳をするつもりも無いですが、おざなりな言葉を紡いで読者をなおざりにしてもいけませんし……ゲシュタルト崩壊＼(^o^)／
てにをは辞典
私の愛用辞書。小説を書くのであれば、レトリック辞典と類語辞典の次に役立つであろう辞書。