短歌
恋のうた 篇
- キミが好き 140字のつぶやきの存在以上にボクはなれない。
- ドライアイ 君の笑顔は眩しすぎ キーボードへと涙をこぼす
- ポッキーに宿る願いは宙で折れ ディスプレイに付くチョコの染み跡
- 柔らかくマウスに添える中指は 触れることさえできない君へ
- 闇惑い因果で巡り逢う君と 中二病でも恋がしたいと
- シクラメン月のない夜に燃えあがり 愛する人に火の粉を落とす
- 恋無くし孤独に浸るヒロインは画面向こうの愛を知らずに
雨、雪、風のうた 篇
- 百円の傘の向こうに見る空に「さよなら」をいう君が重なる
- 降り出した 傘持ち駆け寄る恋人の幻影を視てひとり微笑む
- 涙出ぬ私の代わりに泣いている 酸性雨私の髪の毛濡らす
- 独り身に吹く北風にほくそ笑む(幼女の髪を撫でた風かも…!)
- 霜柱踏みしめ進む足跡を 誰かのために遺しておきたい
現実のうた 篇
- イケメンになろうと決めたあの日から 鏡はボクの視界に消えて
- 朝五時に鳴る目覚ましの電子音 意味がなくても生きてはゆける
- 「頑張れ」と「やればできる」に押し込まれ 僕は本音を心にしまう
- 思い出に浸れば大人になったよう 車窓に映る姿変わらず
- 単語帳一巡りして駅に着き 目指すところに一歩近づく
- 現実を見ると誓ったあの日から「諦めたのか」と言われ続ける
- 学期末アドレス帳の友達を 利害関係の絆で繋ぎ
- リアルでもボタンひとつでフォローしてリプライ交わす仲になりたい
- リプライをメール通知にしてからは 友だち多いと思われている
- 私語溢れ壊れた講義 前列で 夢と妥協を秤にかける
- 引出しの奥に眠りしエンピツに 夢抱きし日の私は宿り
- 明日(あした)から がんばるときめた明日(あす)がきて だらけるわたしに 明日(みらい)はあるの?
- 妄想の中で戦う強敵は 昔怪獣 今リア充
クリスマスのうた 篇
- 冬休み妹たちとショッピング 荷物両手にひとり凍える
- クリスマスふたりでつくった雪だるま ぼくのいもうと今夜はいない
- 温室のポインセチアは街に出て常緑低木クリスマスに散る
「生きる」篇
- 顔うずめ泣く子をふやりとあたたかく抱きしめている枕になりたい
- 価値観を創って壊して貼りあわせ 破って繋げて明日も生きる
- 「死にたい」と呟き求めた反応は、励ましでなく、共感だった。
- 「競争」という名のバスに乗っている 降車ボタンをどこで押そうか
- 夏休み終わらなかった宿題と 始まらなかった青春の夏
- つぶやきの海からやがて人は消え 繰り返される歌だったもの
野暮な解説
ポッキーに宿る願いは宙で折れ ディスプレイに付くチョコの染み跡
11月11日はポッキーの日であり、恋人たちが一本のポッキーを両端から咥えて食べ進め《二人は幸せなキスをして終了》するという古来よりの風習がある。
闇惑い因果で巡り逢う君と 中二病でも恋がしたいと
『中二病でも恋がしたい!』(虎虎 KAエスマ文庫)2012年に京都アニメーションよりアニメ化。六花ちゃんの闇の炎に抱かれて消えたい……。
シクラメン月のない夜に燃えあがり 愛する人に火の粉を落とす
赤いシクラメンの花言葉は「嫉妬」
燃えるように或いは血のように紅く染まる花弁を揺らすと、子孫を遺すための花粉が舞い落ちる。
恋無くし孤独に浸るヒロインは画面向こうの愛を知らずに
失恋したことを嘆く少女は、次元を隔てた画面の向こうに彼女を愛する多くのオタクがいることを知らない。我々がどれだけ二次元を愛そうとも、それは届かないのだ。さておき、知らぬ次元の人たちから一方的に愛されるというのはある種のホラーではある。
温室のポインセチアは街に出て常緑低木クリスマスに散る
ポインセチアはクリスマスを彩る代表的な植物であるが、じつはメキシコ原産であり寒さにとても弱い。日本の冬には耐えられず、屋外に置かれれば落ち葉して枯れてしまうのだ。日が短くなると苞葉を赤く染めて色付くが、現代の光に溢れた社会においては『短日処理』といって擬似的な夜を再現してやらねばポインセチアは赤くならない。挿し木で簡単に増え、育てるのは比較的簡単な観葉植物。夏には元気に育つ。
つぶやきの海からやがて人は消え 繰り返される歌だったもの
かつて、ツイッターでは短歌詠みのためのハッシュタグが賑わっていた。(#jtanka #tankaなど)しかし、短歌をつぶやく自動投稿botが増えすぎたため、今ではハッシュタグを覗いてもbotだらけで人間の姿を見つけられなくなってしまった。なんとも切ない。今日もまたbotたちが《かつて誰かが心をこめてうたった歌》だったものを無機質に繰り返しているのだ。